武蔵中学校 科目 算数 国語 理科 社会 合計
配点 100点 100点 50点 50点 300点
時間 50分 50分 60分  

【算数】

〔1〕面積比     難易度A
〔2〕速さの文章題  難易度B
〔3〕場合の数・推理 難易度B
〔4〕文章題(範囲) 難易度C

B4一枚に1問ずつ,手書きの問題文の下に広がる広大な余白。 ここに解答を記述させる,という出題形式を続けることウン十年。 設問数は大問4に対して多い年で8問か9問,少ない年は6問しかない。 設問数が少ないのは(1),(2)と細かくステップを刻むことで 問題の解法や着眼点などがある程度限定されてしまうのを避けるためだ。 これを私は「骨太な出題」と呼んでいる。 大雑把な行き先(求めるべき解)だけを指定しておいて, そこに至る道(解法)は指定しないのが本校の流儀であり, 国語の記述と同じく, 子供たちに自由な着眼で問題に取り組ませる懐の深さは他に類を見ない。 その分だけ採点の労苦は察して余りあるが (ましてや武蔵受験生の中には他人が読める字を書けない子が多数なので…), 受験生の力を測るには,これしかない, という確固たる信念を感じるのは筆者だけではあるまい。 また問題も和差の文章題,比(文章題・平面図形・水槽グラフ), 場合の数,約数倍数関係の4ジャンルしか出題しない,という徹底した出題内容。 突然出題形式を変えたり,これまでとまったく違う傾向の問題を出題したりする学校もある中, 本校の算数こそが王道なのではないだろうかと思う。 ナンバーワンではなくオンリーワンの入試問題である。 今年の問題も毎度おなじみのものばかりが並んだ。

〔1〕この問題はきわめて基本的。 ただ,(2)の答えがキレイにならないので少し気持ち悪さが残った受験生もいたことだろう。

〔2〕10年ほど前までは, 「これが解けなければアウト」という基本レベルの文章題が多かったのだが, この数年は「これが解ければ合格に一歩前進」, あるいは「解けたらほぼ合格,解けなくても合否に影響なし」という問題が増えている。 武蔵の勝負を分けるのは場合の数ではなく文章題, というのが武蔵特訓担当の確信である。 さて,今年の速さは,というと2003年の速さに比べたらはるかに平易。 この問題は「解けなければアウト」でしょう。

〔3〕場合の数に推理を絡めた問題。 例年の場合の数に比べれば,書き出しの難しさもなく,平易。 (1)があるため,一通り書き出しておいて後から条件に当てはまるものを探そう, というのは普通の受験生なら十分に思いつく解法である。 A君,B君,G君,H君の推理が若干の難所ではあるが, 他の4人を正解して部分点がもらえれば他の受験生に大差をつけられることはあるまい。 さすがにこの8通りの書き出しができないようでは,本校を受験する資格がない。 実は書き出しというのは文章題よりもはるかに訓練しやすく, 短期間で合格水準までもっていけるのである。

〔4〕昨年の〔2〕に続いて端数の処理が問題になる文章題が出題された。 難しい問題だとは思うが,過去に出題されている傑作問題群と比較すれば小粒だ。 したがって,昨年に比べれば全体の平均点は高いだろうと推察する。 今年の問題は昨年度に比べるとかなり平易。 そんな中で,〔1〕〔2〕を落としたらアウト,というのは肝に銘じておこう。 〔3〕で他の受験生に差をつけられているようでは話にならないが, やはり勝負を分けるのは文章題であり, 文章題がきちんと解けるようになるまでには時間がかかる。 つまりは地道な努力が物を言う,という当たり前の結論に達するわけである。

【国語】

物語…桂 望実『ボーイズ・ビー』の3500字 記述問題7問(字数制限なし)漢字7問

武蔵スタイルは万古不易。 毎年期待を裏切らない本校は「これぞ武蔵!」という出題を続けてきた。 今年もその伝統にもれずいかにも武蔵中らしい問題だった、と思いきや・・・・・。

内容を見てみよう。主人公の少年隼人は12歳。 6歳の弟がいるが、母は一ヶ月前に亡くなり、父との三人暮らし。 そこに母と双生児の美佳がお手伝いにやってくるが、隼人はそれが気に入らない。 がさつな美佳は自分の母とはまったく違う異物に見えるのだ。 そんな隼人の微妙な心理の説明が設問の中心になっている。 ということで例年通り、12歳の少年の心の迷いを理解できればなんとか読解はできる。 しかし武蔵中学の国語問題の真骨頂は、本文の内容選択よりもその設問方法にこそある。 字数を制限せず、登場人物の気持ちや物の見方を説明させ、 特にある人物が他の人物をどのように評価しているかに目配りさせる、 などなどが合否の分水嶺になろう。 具体的に検討してみてみよう。

問2はまさに隼人の美佳に対する気持ちの変化をずばり問う問題。 おそらく作問者はこの気持ちの変化の説明をさせたいがために、 この一章を本文として選択したにちがいない。 母を失ったばかりの少年の心の傷が癒えぬまま、 母親の代役を演じる双子の妹に反発を深めるという構図は、 たしかに作問しやすい場面であり、 受験生の感受性や表現力を試すには抜群の素材となる。 しかしその一点主義のために他の設問にやや無理が生じたのも否めないのではないか。 以下に指摘させていただく。

まず問1の設問から。 隼人は靴箱に二通の手紙を見つけて、 自分の顔が赤くなっていないか心配しつつ、 手紙をカバンにしまう。 そして「早く帰らなきゃ。どうしよう。」独り言をいい、 「心臓は生き物のように跳ねる。」とある。 そこで質問。「早く帰らなきゃ。どうしよう、と思ったのはなぜですか」。 設問者はこの手紙を恋文と読ませたい。 @「靴箱の手紙」A「顔を赤らめる」B「すぐにカバンにしまう」C「心臓が跳ねる」 Dあとに出てくる「女の子の人気を二分」などの表現から、 当然そのように理解しろということなのだろう。 しかしこの設問は武蔵中自身のポリシーを自壊させることになりはしないか。 上記@からCの類型化された表現から恋文を連想するのが「当然」だとするのが 「武蔵中の読解の方法」であったのか。 「靴箱の中の手紙」がラブレターであるという「文化・慣習」は当然なのか。 そのように理解しない生徒は評価しないということなのか。 いやそんな慣習は読解の技法としては理解しつつも、 武蔵中がそんな類型的な連想に依拠して読解させることはない、 むしろ忌み嫌う、と考える実力者はどうすればいいのか。 なぜ2通なのか、なぜ発見直後に「早く帰らなくちゃ。どうしよう。」なのか、 直後の野球のシーンとの関連はどうなのか、と厳密に考える受験生もいたはず。 手紙を発見した直後、隼人は野球にさそわれており、 その場面で本文の字数の半分が割かれ、 隼人が仲間とやる野球を嫌っていることが延々と説明されている。 とすれば、 もしかしてこの手紙は嫌がる隼人を野球に誘う出すためのものという可能性がゼロとは言えないのでは・・・、 なども考慮の余地はないのだろうか。 とすれば問1の設問は 「・・・と思ったのはなぜですか。 考えられる事情を自分なりに想像して説明しなさい 。」となるだろう。

問3は本文に書いてあることを言い換えてまとめるだけ、

問4は説明しようがないほど当然な内容の説明なので、 その意味で受験生は戸惑うが、設問としては練られていない。

問5も次打席にいる隼人の不安を説明させるだけ。

問6と問7だけは例年のレベルに近い設問内容になっているがやはり食い足らない。 当校の問題のすばらしさはこの数年縷々述べてきた。 今回は武蔵中への期待が強いだけにやや辛口批評になってしまったが、 本文選択の是非まで含めて、吟味をお願いしたい。来年に期待しよう。

【理科】

〔2〕化学 二酸化炭素について  10題
〔3〕観察問題 結び方が異なる2本の紐の比較 記述
(注:〔1〕は社会の問題)

例年通り、社会と理科合わせて8枚のうち、 後半の4枚が理科に関する問題。 試験時間も社会と合わせて60分と例年通り。 全体としては、例年にも増して差がつきにくい構成で合否に大きな影響を与えなかったと考えられる。

〔2〕二酸化炭素に関する様々な視点からの設問。 (1)水草の光合成に関する問題。 問(1)「でんぷんがあるかどうかを確かめるために使う薬品は何ですか。」 なんていう武蔵らしくない一問一答で始まり赤面しそうになる。 が、問(3)「2本の試験管に入れた水草に見られるでんぷん量の違いとその理由」で軽く比較考察の記述。 (2)ろうそくの燃焼に関する問題。 問(2)「ろうそくを燃焼した時に発生した二酸化炭素が空気に含まれる割合」は記号選択。 「100%」という選択肢が含まれ、 作問者の遊び心とおっちょこちょいな解答者とのコラボレーションがいかにも武蔵らしい。 (3)サンゴ砂(炭酸カルシウム)に塩酸を加えたときの変化。 発生した二酸化炭素の補修法や水に溶けやすい性質 (この問題が後々憂いになる…)など基本知識の記述問題が続き、 問(3)では「サンゴ砂を熱した残留物に水を加えるとドロドロになり、 そこに二酸化炭素を加えると固まります。 サンゴ砂を熱したものが、建物の壁を作る材料になることに対して“君の考えを書きなさい”」 とここでお決りのフレーズが飛び出す。 「リード文から得られる情報だけでなく、個々の理科のセンスを活かして解答しなさい」という合図。 そして、(4)では「ここまでの(1)〜(3)から“わかることに基づいて”、 (例)にならって二酸化炭素の増加をおさえる方法を考えなさい。」という、記述問題。 ここまでの各設問は、この問題を解答するための前座に過ぎない。 ここでは、“君の考えを書きなさい”とは異なり、与えられた情報のみに従い解答しなくてはならない。 知ったかぶりは、本校では嫌われる。 (1)のテーマが植物の光合成について、 (2)のテーマがろうそくなど炭素を含む物質の燃焼であることから、 それぞれ「森林」や「化石燃料」などに注目すればよい。 (3)については「酸性雨」と書きたいが、 (例)に挙げられてしまっている。 ここで追い詰められた受験生が何と書くのか、 作問者が楽しんでいる様子が目に浮かぶ。 「“サイダー”を作る。」って書いた受験生が何人くらいいるのだろう?  いずれにしろ日ごろの生活の中での自然事象への眼差しを大切にする武蔵らしい出題と言える。 この問題に限らず、武蔵の問題の根底にある“自然現象への観察眼”というテーマは不変で、 過去に出題された問題がほとんど同じ内容で出題されることがあるので注意したい。

最後の〔3〕は定番の観察問題。 “引き解け結び”と“もやい結び”に結ばれた2本の紐が与えられ、 輪のしまり方を比較・観察し、そのような結果になる理由を考察する。 過去に出題された「ボビン」や「キャスター」などのてこやばねの性質を利用した道具の観察に比べ、 「比較」という視点で観察すればよいので解答の糸口は見つけやすい。 とは言え、細かな観察眼と現場判断力、 そして、結果を自分の言葉で説明できる小学生を選抜するのに相応しい問題だったのではないだろうか。 観察問題を作問するために本校の先生方は、 よく100円ショップに行かれると聞く。 様々な道具の中から問題として成立する題材を選ぶ情熱と、 問題を洗練していく受験生への心配りが本校の“らしさ”を演出しているのであろう。 この学校の特訓を担当できたことは私の誇りである。

【社会】

〔1〕リード文 約800 字 大問5(小問6 うち記述問題5)

近年武蔵中で出題された社会のテーマを列挙してみると、 「女性解放論 高群逸枝」「水と生態系」「ボーダレス時代の可能性 中江兆民論」 「森林と人間の生存との関係」「暦・時間・人々の生活」となる。 ここから武蔵の社会のテーマが大きく浮かび上がるのではないだろうか。 とにかく「外(海)から見た日本」「日本のアジアへの膨張」」 「モノのつくりと物流」「自然と生活」などは毎年注意すべきテーマである。 今回は鎖国時代における交易がテーマ。 江戸時代には「四つの口」を通じて海外との交易が盛んに行われており、 「鎖国」という表現は当時の実態を適切に説明していないという批判はつとに有名であるが、 武蔵中はその点を突いてきた。 たしかに近年、日本の歴史学では従来打ち捨てられてきた「辺境史」の再認識が迫られてきた。 菊池勇夫「アイヌ民族と日本」(朝日選書)や、 「毛皮交易が創る世界」(岩波)などが先鞭をつけ、 最近ではテッサ・モーリス=鈴木著「辺境から眺めるーアイヌが経験する近代」(みすず)の登場で、 決定的に従来の「ヤマト中心史観」(筆者のかってな造語です)が批判された。 そして今回の武蔵の出題はこの動向にヴィヴィッドに応接しようとするものである (と筆者は断じたいが、早計かな)。

とにかく「江戸時代は鎖国中」の一言でまとめるような学習では、 武蔵にまったく太刀打ちできないことは明らか。 「長崎口」に加えて「対馬口」「琉球口」「松前口」の存在に目配りし、 諸外国との交易が頻繁に行われていたことまで突っ込んだ学習をしておかないと、 度肝を抜かれてハイ終了、ということになりかねない。 (因みに今年海城中では「琉球口」を知らないと解答できない記述が出題されており、 「四つの口」は今後頻繁に他校でも出題される兆候とみるべきか。)各設問をみてみよう。

問1恒例の「お絵描き問題」。 はい、北海道の地図の形が正しく描けますか。 自分の目と手作業を通して学習しているかどうかを試す問題なのです。

問2は間宮林蔵がこの時期北方探検を命じられた理由の説明を記述させるもの。 この辺は確かに学習の盲点であり、さすがに着目は鋭い。 そこでこの時代を少し復習すると、まず1783年工藤平助が「赤蝦夷風説考」を書いているが、 これは、ポーランド革命で活躍したペニョフスキーの存在が大きい。 彼はロシアの捕虜としてカムチャッカに流刑されるも、 軍艦を奪い阿波へ逃亡、現地で「ロシアに警戒せよ」と吹きまくり、 それが平助の「赤蝦夷調査」につながる。 平助は、冷静にロシアに侵略の意図なしと判断し、 ロシアとの交易、蝦夷地の開発を説く。 これに着目して田沼は2回にわたり最上徳内を派遣。 徳内はアイヌ交易の実態、鉱山開発、新田開発、ロシアとの交易の可能性をさぐり、田沼に報告。 しかし田沼は当面ロシアとの交易はやらないと結論。 しかし事態は動き、1792年ラクスマンが大黒屋光太夫らを連れて根室に来航。 窮した幕府は長崎への入港許可書でごまかすが、 12年後レザノフが長崎に来航、開国を迫るも、 幕府は「ぶらかし」の戦術でノラリクラリ。 ぶち切れたレザノフは部下に蝦夷地の攻撃を命令。 自分はモスクワへ向かうも河の氷が割れて水死。 この攻撃に対応すべく北方警備のために近藤重蔵や最上徳内、 そして間宮林蔵らが探検に向かう。 重蔵の息子の殺人事件やゴローニンの話しなどを絡める話題満載の時期であるが、 受験ではまったく無視されてきた分野。 今回の出題をきっかけにサンタン交易や「蝦夷錦」など北方交易が他校でも出題されるようになると面白いのだが・・・。

問3はアイヌの清への朝貢の様子を描いた絵の説明、

問4は、鎖国下の交易、つまり「四つの口」の説明、

問5は「交易によって苦しい立場に追い込まれる」実例の紹介。 近年大問題になってきた所謂「不等価交換」の問題が背景にあることを忘れてはいけない。 先進諸国による「第三世界」からの搾取問題にからむ志操の高い出題であり、 流石は武蔵と敬服するのみ。リベラリズムの極北!