算数
毎年毎年同じことを書いていて恐縮なのだが,実際,毎年変わらないのだから仕方がない。B4の問題用紙4枚,1枚につき1問の大問で合計4問,問題文はすべて手書き,問題文以外の余白はすべて解答欄(今年で言えば〔2〕〔3〕)で基本的に式や考え方はすべて記述する,という出題形式は二十年近く変わっていない。出題内容も和・差への着眼,比(図形ふくむ),場合の数,約数・倍数への着眼の4大テーマ以外の問題はほとんど出題されない。ただし,この3,4年の間では06年〔1〕立体ブロックや04年〔1〕図形の移動などがやや目新しく,また,設問数については最も少ない年でわずか6問(04年など)であったのに比べ,昨年が10問,今年が12問と増加傾向にある。設問数が少ないのは,誘導になる枝問を極力刈り取って,核心となる部分をいきなりズバリと問う(ゆえにさまざまな解法が考えられ,自由度が高い代わりに力のない受験生はどこから手をつけていいのかわからず,そこで力のある受験生との差が開く)ことで,受験生の構想力を見ようという出題意図があると考えられていたが,この2年を見る限り,だんだんフツーの入試問題になりつつあるようにも見受けられる。 〔1〕何もコメントのしようがありません。計算も項の数はたったの4個だし。(2)にいたっては,どこの塾でも最低十回は繰り返しているであろう超典型問題。むしろ解答箇所が7箇所もあることに驚くべきなのか? そういえば「次の□にあてはまる数を書き入れなさい」という解答形式も武蔵では珍しいかも知れない(ぐらい書いておかないと今年の問題では行が埋まりません)。 〔2〕武蔵では久しぶりの流水算。とはいえ「武蔵の入試は文章題が決め手!」というのは,この入試問題分析でも,また,東京出版「中学への算数・この一題」においても,筆者が何度も何度も強調してきた事柄であり,十分な対策を講じている塾の方が多いだろう。本問も,「この程度の文章題を間違えているようでは受験する学校を間違えてるんじゃないの?」といわれても仕方がないレベル。 〔3〕かつては面積比・相似か水槽グラフが一年おきに出題されている時期もあったが,この数年は,水槽グラフの出題は姿を消し,平面図形がほぼ毎年出題されている。難易度は02年にやや難しいものが出た以外は非常に易しい問題が続いていたが,今年の問題は久しぶりにそれなりの難易度の問題である。本問を完答できれば,合格に前進することになるだろう。 〔4〕不定方程式の練習問題としてまさに理想的な良問。とはいえ普通の受験生ならさすがに(2)までは解けるだろう。場合の数の問題は,部分点が比較的容易に稼げるし,また,類題演習を積むことにより短期間でそこそこのラインまでは仕上げることができるため,合格の決め手とはなりにくい。 昨年も一昨年に比べれば大幅な受験者数の増加があったものの,あの難易度で受験者平均が42.6点だったわけだから,ろくたま訓練も積んでいないが推理系や書き出し系の問題だけはそこそこ解ける「なんちゃって武蔵」受験生が大挙して押し寄せてきたのだろうが,人気爆発の今年はさすがに受験者平均が60.2点,合格者平均が77.3点と大幅の上昇。〔1〕(2)の整数,〔2〕流水算,〔3〕(1)(2)あたりで失点してしまった力不足の生徒はカンタンに弾き飛ばされてしまったに違いない。ここまで易しかったのは01年以来だが,翌02年はかなり手ごわい問題を出題してきただけに,来年の武蔵受験生は心して準備をしておくべきである。 国語
例年はこう書いてきた。武蔵の問題は万古不易。難易のブレがほとんど無く、頑ななまでの記述形式は最早畏敬の念すらおぼえさせる。そのユニークな出題形式。他者と自分の気持ちの説明。云々カンヌン、とあいなるのだが、なんと今年はサプライズが…。 出典が約十年前の文章。これだけでも大きなサプライズ。何年か前「兵隊宿」という「古典」から出題されたが、それ以降は、前年出版された小説から出題されていた。そこで当方は昨年出版された「少年小説群」から、エイエイと予想問題20本を作成し、「的中」を待ち受けていたが「完全ハズレ」という結果に。 しかも次なるサプライズは、その設問形式の大きな変化。問1では慣用句の意味説明、問2では比喩表現の実態物の説明。ここまでで小問が5題終了。そして、いわゆる武蔵記述が問3・4・5・6の4問のみ。しかも人物の気持ちの説明がいっさい無い。 漢字の出題が10問。例年になく多い。漢字の出題そのものが無いこともよくある学校なので、これもサプライズ。 ということで全体の仕上がり具合をみると、うーん武蔵らしさが希薄になっちゃいましたな、という印象。だって他者との関係のアヤをしっかり感じ取らせて、表現させるというポリシーが反映されていない。このアヤに反応できる「柔らかい心情の少年」を当校は求めていたのではなかったのか。予想問題でもそこに焦点をあてた作問を150問ほど準備してきたのに…。 ということで、まとめにはいりましょう。まず昨年出版された小説のなかには武蔵の先生方の評価にかなう水準の作品が見当たらなかった。そこで従来「お蔵入り」していた候補をやわら取り出した。 その作品では、少年とアリとの関係を寓話のように書いてあるから、どうしても気持ちの交流が場面には出てこない。つまり他者との関係が「デスコミュニケーション」という形でしか存在しない。つまり「他者から見た自分」という視線を問いにくい形式の文書なのだ。したがって作品としては面白いが、こと武蔵の入試問題に活用する場合は、他者論を排除した設問たらざるを得なくなる。今回の出題形式の大きな変化は作品の形式に規定された必然とみるべきであろう。 したがってこれは当校の大きな方針転換とみるのは誤り。作品形式による今年限りの「変更」とみるのが妥当であろう。おそらく当校内部でも今年の問題についてこれから様々に討議されるであろう。その結果やはり従来型の7問記述に落ち着くことになるであろうことは容易に推測がつく。したがって来年の対策はやはり従来型の問題を想定するべきであろう。しかもそれを十分練磨しておけば、今年のタイプの問題はなんなく対処できることは今年で実証済み。「他者との関係」をつかむ目をもてれば、どんな文章でもほぼ大丈夫なのです。 ということで、とにかくていねいに本文を読む、人物の関係性をしっかり読み取る、気持ちの動きを感知するアンテナをはる、あとは、気持ちを適切に表現する「言葉」を本人が持つ。従来武蔵が問い続けてきたこのスタンスに間違いがあろうはずはない。作問の先生に期待しましょう。と同時に、武蔵の先生のお目にかなう作品が出現しなければ、予想もたてにくいし、武蔵タイプ全開の問題も作りがたい。ここはひとつ今日の小説家の皆さんの水準アップを願いながら、虎視眈々来年を待ちましょう。 理科
例年通り、社会と理科合わせて8枚のうち、後半の4枚が理科に関する問題。試験時間も社会と合わせて60分と例年通り。受験者が前年比120%の今年の入試は、受験者平均点は28.1、合格者平均点は32.1。 〔2〕は樟脳(ナフタレン)の性質に関する問題。問題文中に「樟脳を用いた防虫剤」「水に溶けない白色の固体」「昇華する」の性質が書かれており、樟脳という物質名にピンと来ない受験生もイメージはつかめたはずだ。(1)樟脳が気体になることが、匂いがする以外にどのようなことからわかるか。(2)その他に昇華する物質。5択。(3)樟脳と食塩の分離法を2つ。問題文を読めば2つとも方法が書いてある問題。受験者数が大幅に増加した今年の入試における、受験者層からすればいずれも正解率は高かったのではないだろうか。 続く〔3〕は、アユのなわばりに関する問題。(1)なわばりが出来る場所の特徴、(2)その場所になわばりができやすい理由を2つ、(3)「なわばりアユ」と「群れアユ」のそれぞれの体長と個体数との関係を表した棒グラフからわかること(記述)、と続く。そして、(4)ある年「なわばりアユ」と「群れアユ」の割合が5%と95%になった理由を、個体数の増加と単位時間あたりの攻撃回数と捕食回数との相関関係を表したグラフをもとに考察する、いつもの「君の考えを書きなさい」。魚類のなわばり行動は、02年国学院久我山(メダカ)、04年鎌倉学園(アユ)、06年サレジオB(メダカ・アユ)など、各校で多数出題されておりテーマとしては使い古されてきた問題。魚類に限らず、生物がなわばりを持つ理由は、@捕食とA生殖の2点の活動において争奪のリスクを軽減することにある。すなわちそれが各生物種全体の利益であり、個々の生物の利益ではないことなど動物行動学の基本中の基本。我が武蔵特訓のメンバーにも、生物のいろはを学習する時点で最初に与える注意事項。この点に興味を抱かない武蔵受験生がいるとは考えにくい。球界屈指の重量打線に直球ど真ん中のストライクを投げ込むとか、飢えた狼の集団に子羊を紛れ込ませるような、武蔵に来たいならその実力を見せろ、という武蔵中学からのメッセージなのか。それに応えられなかった受験生達は潔く戦場を後にするしかなかったことだろう。 〔4〕は、ターンバックル(両端にねじ式フックがついた金具)の観察。各部にA、B、Cなどの記号がすでに打ってある。(1)一度分解してから組み立て直し、それぞれの部品の動きから気がついたこと、(2)この金具をどのようなことに使うと便利だと思うか、というように誘導形式になっており非常に親切な設問内容。例年の、櫓舵なき船の大海に乗り出せしがごとく茫洋とした中から、観察眼や表現力、そして個性を輝かせる非凡な才能を持った武蔵らしい受験生を選抜することが出来なかったのではないだろうか。 「中学受験界、唯一無二の存在。巷間の風説にも耳を傾けず、何があろうとも入試問題の形式を全く変えず、…云々」と結んだ昨年の昂揚感が今となっては懐かしい。このような設定が今後も続くようなら、理科が好きで、小器用で、そして、とにかく真面目に努力することが、栄冠への近道と言えるだろう。 社会
大問4つのうち〔一〕だけが社会の問題。ほかは理科、つまり同時に配布して60分で理社と解かせるという方法。設問の内容自体は理科と社会は別々になっているので「理社融合」とは言えない。ただひとつに束ねて、一緒に配布しているだけの話。 さて、社会の問題はと見ると、水がテーマ。テーマ性の強いリード文を読ませて、記述解答させる形式は今年も同じ。本校の社会の問題は受験知識の暗記では対応できないことは毎年指摘している通り。つまり紋切り型の知識をいくら数多く暗記しても太刀打ちできない。まずリード文をじっくり読みこなし、問われている内容を思考し自分なりの表現で記述する力が問われる。理・社の区別にとらわれない、広くしなやかな教養が決め手となる、が、それが無くてもナントカはなる。 01年は「水と生態系」、03年は「森林と人間の生活」が問われ、環境関連は大きなテーマ。04年には白馬岳の写真で記述を問いましたが、これも「自然と生活の関連」を考えさせるもの。05年にはアイヌと山丹人との交易の様子を描いた絵が掲載され、それを見て「北方交易」に開眼させようという出題でした。つまり「歴史の中の物流と異文化」がテーマだった。 昨年は自然災害、特に火山噴火が話題としてとりあげられ「被災と人々の協力」が大きなテーマ。確かに04年から今日まで日本でも世界でも自然災害が数多く報道された。04年の集中豪雨と猛暑、日本に上陸した台風の最多記録、浅間山噴火、中越大地震、スマトラ島沖津波、05年春の玄海灘方面の大地震、秋ごろのアメリカのハリケーン被害、そして05年から06年にかけての日本海側の記録的な豪雪などなど、自然災害はニュースでも大きく取り上げられ、昨年のテーマにはそんな背景もあった。 そして02年に「中江兆民とボーダーレス時代の国際関係」が問われたのは、明らかに01年9月の同時多発テロとその後のアフガニスタン爆撃の動向を反映していましたが、武蔵中の出題はこのように「時代背景」に対応させようというアクチュアリティを感じさせる。 さて今年の本文では「21世紀は水の世紀」という時代背景に対応したと見てよい。中国内陸部などでの水不足のニュースなどはひんぱんにニュース映像で流される。問題文中の世界の塩水と淡水の割合比較グラフや、水の使用方法のグラフなど、人類の生存に関わる大問題をわかりやすい会話文にまとめあげて、問題提起する姿勢はいかにも武蔵。01年の「水と生態系」を引き継ぐテーマだったといえよう。 簡単に得点のポイントだけ指摘しておこう。点差がでたのは明らかに問5・6・7の記述。いずれもテーマを自分なりに選択して書かせる問題であり、筆力の無い者はまったくの白紙を提出することになろう。実際白紙はかなり出たはずである。しかしこのスタイルを克服するのは実は困難ではないのだ。それなりの構えさえあれば十分準備できるのである。ここでの点差をほかの科目で補ったりするのはかなり大変であろう。 ヒントをひとつ。社会に関しては「テーマを的中」させることは意味をなさない。では何を準備すればよいのか、それは3月トライアルでじっくりご説明しましょう。しかし賢明な御父母ならば、問題の設問方法を一瞥すれば、即了解していただけるだろうから、ご説明するまでもないとは思うが・・・・。 とにかく、今年もいかにも武蔵中らしい出題でした。テーマ主義も、資質を問う姿勢もまったく従来通り。今年の国語で微妙な変化があっただけに、このスタイルは「文化遺産」として今後も末永く維持していただきたいもの。とにかく小賢しい知識でなく、広やかな教養そして筆力が勝負のポイントになります。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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